百日後に日舞の名取試験を受ける某

日本舞踊のお稽古に励む中年がお名取試験を受けるまでの記録

お扇子の持ち方がおかしい

と、お師匠に指摘されました。

え、今さら…

お名取試験を受けると言ってる人が、そんな序の口、基本のキみたいなところで…

と、お思いでしょうが、はい。全く同感、返す言葉もございません。

これまでのお稽古で、お扇子を使う踊りをしなかったのかというと、全然そんなことはなかったのですが。むしろ、初めてのお浚い会にかけた曲は、お扇子しか使わなかったのですが。お師匠からすると、それ以外の指摘ポイントがありすぎて、ようやく今ご指摘されるに至ったのかもしれません。

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これは自分で描いたお扇子。両面に描き損じがある。

 

ご指摘を受けたのは、お浚い会の前日。下浚い(リハーサル)後の後片付けの時です。

「随分、間の取り方がよくなったよ。だけど、時々お扇子の持ち方が気になるな」

とのことで、実演して見せてくださったところ、確かに、私のお扇子の持ち方とは違っていました。

何をするにしても、時々、こういうことってありませんか。自分としては堂々と、これでやってますが?みたいな素振りで大きな顔をしていたけど、ひとたび気付くと、まるで違うことが明らかで、なぜ今までこれで大丈夫だと思っていたのかを不思議に思い、顔から火が出、穴を掘って入りたくなる…みたいな。

時折、間違った持ち方でも、どうにかお箸を使って食べてる方がいらっしゃいますが、私もそういう感じだったのかな、と思います。

まず違いを自覚しないと、是正のしようも無いので、気付けただけ、成長だと思うことにします。

 

そもそもお扇子の持ち方に意識が及んだのは、昨年末の、師匠の公演でした。師匠と、ゲストの先生方に加え、門下の先輩方の演目も2曲ほどありました。

本番で、先輩方の群舞を客席から眺めていたら、ある先輩のお扇子とそれを動かす手の動きが、くっきりと浮き上がって見えたのでした。

えっ…何あれ…素敵!!

いつもどこからか飴ちゃんを出してくれて、爆笑エピソードに事欠かず、下卑た話にはノリノリで乗ってくれる、あの先輩が…

何と儚げで、たおやかなお扇子捌きなのか…!!

帰り道、あのお扇子の動きは何ですか、感動しましたと詰め寄ったら、それにまつわるエピソードを話してくださいました。

まず、お扇子が綺麗に見える動きを描いて、手はあくまでお扇子に沿わせる、ということ。

今は亡きご宗家が生前話されていたことー舞踊家になられて流派を確立し、随分歳月が経たれた当時ですら、絶え間なく手の動きを研究されていて、日々の生活の合間、お風呂の浴槽に浸かりながらでも、美しく見せられる角度、動かし方を試してみていると仰っていたこと。

ご宗家も、先輩も、花びらがはらはら舞う様子を思い描いてお扇子を動かしていらっしゃったということ。

私が教わっているお師匠は当代の家元で、彼のお扇子捌きには華があると常々思っていたのですが、ご宗家の愛弟子だった先輩のお扇子捌きは、侘び寂びを伴った美しさとでも言いましょうか。そして、それを見た私は、稲妻が走ったような衝撃を受けたのでした。

 

話を私のお扇子の持ち方に戻します。

本番前夜に致命的なご指摘を受け、改善せねば…という意識はあったものの、怒涛の荷物運び、会場設営、裏方作業などに追われ、自分の支度もお客様が入ってからで、あっという間に出番になり、舞台に立ちました。

これまでのお稽古の中でいただいた、数多のご指摘。師匠には明示はされなかったが、自分で動画を見て気付いた改善点。前日の下浚いでは、レンタルした本式の小道具を使ってこそ実感できたご指摘も受けました。それらを思い返しつつ、猿廻し(・小猿)としての演技もし、…そうだ、笑顔!私は口角が下がって憮然として見えるからなぁ…はっ!体幹!!という感じで、忙しく考えながら踊っていたら、あっという間に18分弱の一曲を踊り終えました。

気が付いたら、お扇子の持ち方については、改善するどころか、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのでした。まだまだ修業が足りません。

 

名取試験まで、あと96日。